研究

はじめに

「より良い教育を実現したい」
本研究室における研究や教育を通して目指すことはこの一言で表されるのですが,もう少し説明します.

「より良い教育を実現したい」という思いは多くの教員が持っているものだと思いますが,どのようなアプローチで実現するのか,がポイントになってきます.

現在,吉田研究室の一つのアプローチとして,オンラインで大規模なアクティブラーニングを実現するための取り組み LearnWiz を行っており,その取り組みに興味ある方は LearnWiz のページをご覧ください.

また,ここでそもそも研究って何かを知りたい人は是非「研究って何?」の記事をご覧ください.

以下では,研究室に関連する重要なキーワードおよび本研究室のアプローチを説明した上で,具体的な研究テーマについて説明します.

重要なキーワードおよび本研究室のアプローチ

教育工学

教育工学は,工学,教育学,心理学などの多様なアプローチを取り入れつつ,教育改善に役立つ知見を創出する,実践的で学際的な学問分野です(より詳しく知りたい方は『教育工学とはどんな学問か (教育工学選書)(ミネルヴァ書房)』をご覧ください).
ここで,教育工学という名前から,教育改善を目的とした技術開発,いわゆる EdTech の開発を思い浮かべる人も多いかと思います.もちろん EdTech の開発も教育工学の範疇に入るのですが,教育工学ではそのような教育技術の開発だけを対象にするのではなく,学習過程の効果的な設計,評価技法の開発,効果的な教材の開発など教育改善に広く関わる事項も研究対象にしています.つまり,どのように何をすれば教育改善されるのかという視点を持ち,課題解決に向けた活動の計画,試行,評価を繰り返し行っていくといった,教育に対して広い意味でのエンジニアリング(工学)を行うのが教育工学です.
本研究室では,教育に効果的だと考えられる技術やプログラムを開発,それらを活用および評価するなど教育工学的なアプローチを用いて,より良い教育の実現を目指します.

以下,教育工学的なアプローチをする上で,本研究室が重要だと考えているキーワードについて説明します.

アクティブラーニング

アクティブラーニングは,学習内容を自分なりに文章や図としてまとめたり,応用的な問題に他の学習者と協働して取り組むなど,能動的な学習のことを指します(定義や説明の仕方は各組織・研究者によって異なるため,今のところざっくりこの程度の記述にしています).教員の説明を聞くような受動的な学習に加えて,アクティブラーニングを教育に取り入れることは国内外で重要視されており,「いかに教えたか」ではなく「いかに学んだか」といった学習者本位の考え方に変わってきています.

実際アクティブラーニングを組み込むことで,学習の質が大きく高まります.それはこれまでの研究でも示されています.例えば,Deslauriers ら (2011) の研究では,受動的な学習のみに比べてアクティブラーニングを組み合わせた学習を行うことで,後者の学習を行った学生の方が内容理解テスト(100点満点)の成績が平均点30点以上良かったり,授業への出席率が上がったり,授業中に他のことをする学生が減ったりなど,様々なポジティブな学習効果がありました.また,Freeman ら (2014) の研究では,メタ分析(平易に言うと過去の文献を網羅的に分析する方法)を用いて,生物学,化学,物理学などそれぞれの理系分野でアクティブラーニングによる学習効果がクラスサイズが大規模でも小規模でも高いこと,授業科目の落第率が講義のみに比べて低いことなどが明らかにされています.

また,吉田自身が,東京大学フューチャーファカルティプログラム(大学教員を目指す大学院生および若手教職員向けの教え方を学べるプログラム)にて,丁寧に設計されたアクティブラーニングを体験して,「授業を通してこんなにも学べるんだ!」と学生のときに感動したという実体験も合わさって,より良い教育を実現する上では重要なポイントだと感じています.

そんなに効果の高いアクティブラーニングだったら,どんどん導入すればよいではないか? と思われる人も多いと思います.その通りなのですが,講義からアクティブラーニングを取り入れた授業にするためには,従来行っていた授業スタイルを変える必要があり(授業設計や教材などを変える必要があり),多忙でアクティブラーニングに馴染みのない教員にとってハードルが高いところが,幅広いアクティブラーニングの普及のネックになっています.ここで,次のファカルティ・ディベロップメントというキーワードが重要になってきます.

ファカルティ・ディベロップメント(FD)

ファカルティ・ディベロップメント(FD: Faculty Development)は,(日本では)教員の教育力を向上させる取り組みのことを指しています(注1).実は,大学では FD を実施することが義務化されています(文部科学省 2007).
アクティブラーニングやオンライン学習に代表される新たな学習形態を教育に取り入れるなど,教育を改善していく時,教員に対するサポートがあった方が良いですよね.その教育改善のサポートも FD の一つです.

教員一人ひとりが学習者一人ひとりに影響を与えることから,教育の質を全体的に向上させるためには,学習者だけにアプローチするだけでなく,学習者に影響を与える教員に対してもアプローチすることが重要です.そのため,本研究室では教員に対する教育力向上の取り組みも重視しています.

オンライン学習

オンラインを活用することで学習機会を幅広く提供できます.ライブで学習を行う同期的なオンライン学習であれば場所に限らず学ぶことができますし,動画教材などを用いてオンデマンドで学ぶ非同期的なオンライン学習であれば場所に加えて時間を選ばずに学ぶことができます.また,オンライン学習は対面学習と組み合わせること(ブレンド型学習)で更に学びを深めることもできるため,その有用性は高いです.

ここで,オンラインだとアクティブラーニングできないと思われる方が多いのですが,そのようなことはありません(おそらく動画を一人で見る学習をイメージされているのではないかなと思います).オンラインでも,Web 会議システムを使ってリアルタイムにグループ分けを行ってメンバー同士で会話すること,掲示板を使ってメッセージをやりとりすることで他の学習者と協働しながら,能動的に学習することができます.

そこで,本研究室では,より良い教育を実現する上では,幅広く学生や教員にアプローチできることが重要だと考えており,オンライン学習を取り入れることを重視しています.また,オンラインにおいてもアクティブラーニングを促すような仕組み・プログラムを開発することで,質の高い学習を幅広く提供できるようにしたいと考えています.

アプローチまとめ

質の高い教育の幅広い提供に向けて,教育工学的な視点を持って,学習者に加えて学びを支える教員に対してアプローチをします.具体的なアプローチ方法としては,学習者にアクティブラーニングを提供すること,教員がアクティブラーニングやオンライン学習を教育に取り入れられるように支援すること,アクティブラーニングやオンライン学習を体験・実施できる環境を整備することなどが挙げられます.

それらのアプローチをする上で,有用な教育ツール・システムなどの EdTech の開発・評価や教育や FD プログラムの開発・評価などが本研究室の関心事項です.そこで,そもそもどのようなツール・システムが現状必要なのか,どのようにツール・システムを活用・評価するのか,どのようなプログラムが必要なのか,どのようにプログラムを実施して評価するのか,などを明らかにすることによって,より良い教育の実現に貢献できるエビデンスを創出することを目指します.

研究テーマ

以下に例として挙げた研究テーマがありますが,学生が実際に取り組む研究テーマについては,それぞれの学生と相談して決めたいと思っていますので,興味があることは積極的に教えてもらえれば嬉しいです.

新たな教育ツール・システム(EdTech)の開発・活用・評価

新たな教育ツール・システム(EdTech)を開発して,それを教育実践で活用して,その評価を行います.

例えば,オンラインにおけるアクティブラーニングを実現する Web システムの開発を行い,そのシステムを用いて教育プログラムを実施して,システムの評価を行います.

既にあるシステムの拡張を研究することも可能ですし,新たな視点を持って EdTech を開発・活用・評価することも可能です.

教員向け教育力向上のプログラム(FDプログラム)の開発・実施・評価

FD プログラムを開発し,それを実際に行い,そして評価します.プログラムを開発して実施するだけでなく,それを多角的に評価して,プログラムの効果を検証することも肝要です.

例えば,オンライン教育の考え方や方法について学べるオンラインでリアルタイムに行うプログラムを開発し,実施します(以前オンライン授業に関するオンラインワークショップを実施した際は1000人を超える参加があり,そのような大規模なプログラムの実施も検討可能です).そして,質問紙,インタビュー,成果物などを用いてプログラムを多角的に評価します.

既に行っている FD プログラムの評価を行ってもらうことも可能ですし,新たに FD プログラムを開発・実施・評価することも可能です.

教育プログラムの開発・実施・評価

アクティブラーニングやオンライン学習を取り入れた,学生対象の教育プログラムを開発し,それを実施して,その効果を評価します.FD プログラムと同様,開発して実施するだけでなく,評価することが重要です.

例えば,国際的に協働する教育プログラムを既に開発し,実施しています.そこで,その教育プログラムを通して,学習者は何を学んでいるのか? 批判的思考能力や協調性など汎用的な能力は育まれているのか? 国際理解がどれだけ進んだか? など様々な観点で評価します.

既に行っている教育プログラムの評価を行ってもらうことも可能ですし,新たにプログラムを開発・実施・評価することも可能です.

引用文献・注

【引用文献】
– Deslauriers, L., Schelew, E., & Wieman, C. (2011). Improved learning in a large-enrollment physics class. science332(6031), 862-864.
– Freeman, S., Eddy, S. L., McDonough, M., Smith, M. K., Okoroafor, N., Jordt, H., & Wenderoth, M. P. (2014). Active learning increases student performance in science, engineering, and mathematics. Proceedings of the National Academy of Sciences111(23), 8410-8415.
– 坂元昂(著),永野和男(著),岡本敏雄(著),日本教育工学会(監修)(2012)教育工学とはどんな学問か (教育工学選書),ミネルヴァ書房
– 文部科学省(2006)大学教員のファカルティディベロップメントについて,文部科学省 中央教育審議会 大学分科会 制度部会(第21回(第3期第6回)),https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo4/003/gijiroku/06102415/004.htm (参照日 2021年4月19日)
– 文部科学省(2007)大学設置基準等の一部を改正する省令等の施行について(通知),http://www.mext.go.jp/b_menu/hakusho/nc/07091103.htm(参照日 2021年4月19日)

【注】
– 注1: FD は,海外だとより広義で,教育のみならず,研究計画書の作成や研究室の運営など研究に関するサポート,リーダーシップ教育などマインドやスキルのサポートなど含まれます.より広く Professional Development と呼ばれる場合もあります.また,教育に関する職能開発は Educational Development と呼ばれることもあります.ここで,一般的に日本の FD は教育にフォーカスがあたっているため,FD というよりも Educational Development の方が合っているように感じますが,文部科学省 中央教育審議会 大学分科会 制度部会(第21回(第3期第6回))の補足資料内で FD が「教員が授業内容・方法を改善し向上させるための組織的な取組の総称」とされていることもあり,日本における FD という言葉は教育をメインの対象とすることが多いです.