オンラインで効果的にグループワークをする工夫

オンラインで効果的にグループワークをする工夫について基本的なことを書いていきます.
グループワークを実施する際は,Web 会議システムのブレイクアウト機能を用います.そのため,本記事も Web 会議システムのブレイクアウト機能を使ったグループワークの工夫について説明していきます.

ブレイクアウト機能とは?

多くの Web 会議システムにはブレイクアウトという機能があります.全員が入っているメインルームとは別に部屋を用意できる機能で,この機能を使うとグループごとにブレイクアウトのルームを用意することで,グループワークが実現できます.

Zoom の場合,2021年5月18日現在は,参加者が200人までだと50のブレイクアウトルームを用意できるようです(Zoom ヘルプセンター ブレイクアウト ルームの管理).
また,Zoom のブレイクアウト機能の使い方については,「東京大学 オンライン授業・Web会議ポータルサイト(utelecon) Zoom ブレークアウトを使ってグループワークを行う」 にまとめてありますので,必要に応じてご覧ください.

ブレイクアウト機能の不便な点

ブレイクアウト機能を使えばグループディスカッションができて,それで十分ではないか,と思う方もいらっしゃる方もいるかもしれませんが,実際に使っていくといくつか不便な点が出てきます.以下,主な問題点2つを掲示します.

  • ブレイクアウトの学生の様子がわからない問題
    • ブレイクアウトルームにいる学生の様子が,メインルームにいる教員にはわかりません
    • ブレイクアウトルームに教員が入ればわかるのですが,全体像は把握しにくく,個別に入らないといけないところが不便です
  • ブレイクアウトの学生に声で指示出し・コメントできない
    • ブレイクアウトルームにいる学生に対して,メインルームにいる教員が音声で指示出しやコメントができません
    • Zoom ではテキストメッセージを送ることはできるのですが表示は大きくなく気づきにくい状態です

対面の授業と異なり,Web会議システムのブレイクアウト機能を普通に使うだけでは,グループ全体を見渡したり,声を出して指示をしたりできないのが不便なのです.

ブレイクアウト機能自体は素晴らしいのですが,その不便な点をどう克服するのかが肝になってきます.そこで,以下では具体的な工夫を紹介します.

どのような工夫がある?

上記の不便な点に対応した工夫を説明していきます.工夫をすることで対面での授業よりもグループワークの把握がしやすくなるなど,オンラインならではの教育が実現できる点が興味深いです.

最も重要な工夫は,Google ドキュメントなどで複数人が同時に共同編集できるワークシートをグループごとに用意して,グループ作業の様子をそのシートに記入してもらうことです.

最も重要な工夫: 共同編集できるワークシートを用意してグループ毎に作業を記入してもらう

工夫の方法

以下,工夫の方法を具体的に説明します.ここでは,わかりやすさを重視して,共同編集できるドキュメントとして Google ドキュメントを例に挙げて説明しますが,Google スライド,Google スプレッドシート,Word Online なども共同編集できるので,本工夫はそのようなツールでも応用できます.

1. 授業前に共同編集できるワークシート(例: Google ドキュメント)をグループ数分作成して,それらのシートが入ったフォルダを用意する

Google ドキュメントをグループ数分用意します.用意する際のコツを以下に示します.

  • ワークの内容を書いておく
    • ブレイクアウトルームに分かれると,メインルームの画面共有が見られなくなるため,グループワークとして何をすればよいのかわかりにくくなります.その対応として,ワークシートにワーク内容を書いておくとブレイクアウト中に何をすればよいのかわかるため,グループワークがスムーズになります.
  • (必要に応じて)自動でワークシートのコピーを作成する
    • ワークシートをグループ数分用意するためには,ひたすらファイルをコピペしないといけないので,意外と時間がかかります.そこで,Google ドキュメント,スプレッドシート,スライドなど Google サービスについては,Google Apps Script (GAS) を用いると自動作成できます.こちらの方法に興味がある方は「Google ドキュメントなどのファイルのコピーを自動で複数作成する方法」の記事をご覧ください.
  • ファイルの名前にグループ番号を入れておく
    • 授業時に共有して各グループがどのワークシートを使えばよいのかわかるようにするためにファイル名にグループが識別できるような情報をいれておくと便利です.ここでは,グループ番号としていますが,すでにグループ名が決まっている場合はグループ名を用いても良いかもしれません.
  • グループ数分のワークシートが入ったフォルダを用意しておく
    • 一つ一つのワークシートの URL をグループ別に共有すると時間と手間がかかってしまいます.そこで,グループ数分のワークシートが入ったフォルダを用意して授業時にフォルダの URL を共有すると,スムーズに各グループにワークシートの情報を共有できるのでおすすめです.

ワークシートの例

2. 授業中にワークシートが入ったフォルダを共有して,各グループにてシートに作業内容を記入してもらう

グループワークをする際に,各ワークシートが入ったフォルダを共有して,各グループにはワーク中に作業内容を各シートに記入してもらいましょう.そうすることで,リアルタイムに各グループが何をしているのかを教員がわかるようになりますし,後日各グループが何をしていたのかを確認することができます.

  • (必要に応じて)グループ番号を決めておく
    • どのワークシートを使えばよいか明確になるように,それぞれの学生が所属するグループを明確にしておくとワークシートの利用がスムーズになります
    • そうでない場合はランダムに割り当てるので良いかと思いますが,グループ番号が割り当てられないため,どのワークシートを使ってよいかわからなくなります.そこで,ブレイクアウトルームの番号をグループ番号とするのがよいでしょう(Zoom の場合,ブレイクアウトのウィンドウの左上に「ルーム1」など表示されるのでその番号をグループ番号とするよう指示出しするとよいでしょう.場合によっては一度テスト的にブレイクアウトルームに行ってもらいグループ番号を確認してもらう時間を設けるのもよいかもしれません).
  • (必要に応じて)学生の名前にグループ番号をつけておく
  • ワークシートの使い方を説明する
    • ワークシートをどのように使うのか画面共有をしながら説明するとワークがスムーズに進行します.
  • ワークシートの内容を適宜確認して,必要に応じて介入する
    • グループワーク中に学生がシートを更新してくれると,教員側もその内容をリアルタイムに把握することでき,各グループが何をしているのかわかるようになります.もし進みが遅いところがあれば,そのグループのルームに直接訪れてファシリテートするのもよいでしょう.
  • (必要に応じて)ワークシートに指示出しを直接書き込む
    • 音声で全体に指示出しできないため,途中でワークする上での注意点を補足したり,追加作業をお願いしたりするのが難しいです.そこで,数が多くなければ,各グループが使っているワークシートに,講師がテキストボックスを直接貼り付けるなどするとワークシート越しに指示出しすることができます(この工夫は東京大学 栗田佳代子先生が考案された工夫です).

この工夫のメリット

数多くの具体的なコツを載せましたが,この工夫のメリットは以下のとおりです.

  • 教員がワークシートを見ることでグループ毎の進捗や話している内容がわかる(必要に応じて介入する場所を特定できる)
  • 学生の議論が記録として残る
  • ワークシートに指示出しを書き込むことで学生が指示出しを確認しやすくなる

この工夫が必要ないとき

例えば,以下のようなときはこの工夫は必要ないかもしれません

  • アイスブレイクとして,お互いの顔にみてコミュニケーションをとってほしいとき
  • 各グループにメンターや TA が入っていて,各グループの進行はメンターや TA がハンドリングすることになっているとき

その他の工夫

オンラインのグループワークにおける工夫としては他に以下のようなものがあります.

  • Google meet を複数立ち上げて,メインルームとサブルーム両方に教員が入り,必要に応じてメインルームで音声で全体連絡し,サブルームで学生の様子を把握する(東京大学大学院工学系研究科 柳澤秀吉先生が「東京大学 オンライン授業・Web会議ポータルサイト(utelecon)よりよいオンライン授業をするために」に「Google meetを使ったグループワーク型授業の例」(pdf)にて情報共有してくださっています)
  • グループワークの内容をチャットで共有して,グループワークで何をするべきかがわかるように記録として残しておく
  • Web会議システムとは異なるサービス(例えば授業の学生全員が参加している Slack)を使って指示出しする

他にもあるかもしれませんが,今のところ思いつくのは以上です.

オンラインでも効果的なアクティブラーニングを実現できますので,興味がある方は実践してみてください!