研究って何?

  • 2021年9月3日
  • 2021年9月3日
  • 研究

研究とは何かについて,これから研究をすることになった学生や研究について知りたい人向けに書いていきます.吉田が学生時代に読めたら良かったな,という観点で書いていきます.
(書き終わったのですが,すみません,かなり長くなってしまいました.ただ具体的なイメージも持ってもらうにはこれぐらい書くのが重要かと思ってます.是非読んでもらえるとありがたいです!)

そもそも研究って何?

研究とは,新しい知を生み出すことです.東京大学憲章学術における「真理の探究と知の創造」という表現は,研究の定義として記載されているわけではないですが,コンパクトに研究のポイントが書かれているように感じていて,好きな表現です.

研究で培った力はどこでも通用する

大学に入ったら研究できるチャンスがあるので,大学に入る方には是非積極的に取り組んでもらいたいと思っています.このように書くと,「研究って社会に出ても役立たないから適当にやればいいじゃん?」と思われる方もいるかもしれません.実際,自分も学生の頃は研究と社会のつながりを明確にわかっていなかったので,その気持ちもわからなくはないのですが,今は自信をもって研究することをおすすめできます(もちろん研究を絶対やれ!というわけではなく,あなたの人生にとって有意義な力が身につきますよ,せっかく大学に入ったならちゃんとやってみませんか? という提案です).

なぜ,そこまでおすすめできるかというと,研究する力はどのような場面でも有用な力だからです.吉田は,これまでに,企業の長期インターンシップに参加したり,NPO 活動で企業の方と協働したり,講演・研修の実施を通して様々な教育機関の方と対話したり,書籍の執筆活動で多様な方たちと協働したり,と色々な人達と協働・対話してきました.その中で感じたことは,主体的に課題を見つけて,その課題解決に向けて試行錯誤できる力は何よりも大切だということです.

研究できるということは,過去に行われてきた研究を調査した上で,問題点や課題を見つけ出し,その課題を解決するために自分なりに計画を練って,実行して,失敗したら再挑戦して,他の研究者たちとも協働・議論して,自分なりの答えが出るまで取り組み続けることができるということです.そのように主体的・自律的に問題解決に取り組める人材は世の中には多くなく,企業もそのような人を熱望していますし,研究職でもニーズが高いです.また,起業する場合でもトライアンドエラーの連続で,研究で培った力は活きるでしょう.

そのため,大学に入る人には,せっかくなので研究にちゃんと取り組んでみてもらいたいと思っています.ただ,そうはいったものの,吉田も学生時代は研究の全体像やイメージがつきにくかったので,何をやればちゃんとした研究なのか十分わかっていませんでした.そこで,次からは吉田なりの具体的な研究のプロセスを紹介していこうと思います.

吉田が考える研究のプロセス

ここでは,研究の具体的なイメージを持ってもらうために,吉田が考える研究のプロセスを紹介します.図の方がわかりやすいかと思いますので,プロセスを以下のように図示しました.

図を説明すると,まず,どのような研究を行うか「テーマ」を決めます.その後,より具体的に何を明らかにするのかを明確にして研究「目的」を定めます.その目的に合わせて研究の「計画」を行い,それにもとづき「実行」します.そして,実行した結果を「評価」して,上手くいかなかったら「計画」をやり直して,再度「実行」して結果を「評価」します.そのようなサイクルを上手くいくまで繰り返し,ある程度結果がまとまったら,対外的に研究を「発表」します.多くの段階において「先行研究」は重要であり,先行研究を参考にしてプロセスを進めます.

以下,それぞれの項目について詳しく説明していきます.

テーマを決める

どのような研究に取り組むかを決めます.研究をする場合,半年以上は時間を費やすことから,自分の興味があるものを選ぶことがおすすめですが,研究に慣れるという意味では,例えば卒業研究や修士論文では,与えられたテーマでやるのも一つの方法かもしれません(ただ,自分でテーマ設定する力は,自分のオリジナリティを出す観点で非常に重要になってくるため,早めのうちから自分なりのテーマ設定をできるように努力することをおすすめします.ここで,与えられたテーマがあった場合でも,自分なりに研究のオリジナリティを考えることにはなりますし,是非そのような姿勢で研究テーマに向き合ってもらえればと思います).

自分の興味があるものは何なのか? 興味があるものがわかったとしても研究に昇華させるためにはどうすればよいのか? など疑問が出てくると思うので,以下,簡単にコメントします.

  • まず興味があるもの,好きなものを探る
    • これを既に持っている人は良いのですが,持っていない人にとってはここが一番難しいかもしれません
      • 吉田の場合は,博士2年生の時に教え方を学べる東京大学フューチャーファカルティプログラムを受講して,「授業ってこんなに面白くできるんだ!」という感動を覚えて,工学のバックグラウンドを活かして,教育に従事したいと強く想うようになりました.少し遅かった気もしますが,興味があるものが見つかって良かったです
    • 一概には言えませんが,以下のような方法で探っていくのが良いかもしれません
      • 【色々な授業を受ける】 せっかく大学には多様な分野の専門家の先生がいて,その先生が授業をしているわけなので,少し気になる分野があれば,その授業をとってみるのがよいかもしれません.また,授業を受けるだけではなく,その先生に積極的に質問しにいったり,場合によっては研究について話を聞くのも良いかもしれません
      • 【気になったらやってみる】 好きかも? 興味あるかも? ぐらいだと興味があるものをなかなか絞りにくいかもしれません.そこでおすすめなのは,とにかく特に興味があるものをやってみる,ということです.研究やその分野の勉強をやってみるとイメージと違うこともあったり,自分とめちゃくちゃ合ってると気付くこともあるかもしれません.あれこれ長い時間かけて悩むよりは,まずやってみる,という精神も重要だと感じています
  • 具体的な研究テーマを決める
    • 興味あるものが見つかったら,具体的な研究テーマを決めていきます
    • 研究テーマを絞っていく上で,ポイントとなることを以下で説明します
      • 【興味ある研究分野の論文を読んでみる】 実際にどんな研究があるのかを知る上では論文を読んでみるのもおすすめです.Google Scholar でキーワード検索して,興味あるタイトルや概要(アブストラクト)のものを選んで読んでみましょう(先行研究の調べ方については後述します).ここで,分野の動向を知りたい場合は,オリジナルな研究がまとめられた原著論文よりも,分野の研究をまとめて総括しているレビュー論文を読むのがよいかもしれません.原著論文でもイントロダクションで,その論文に関わる研究がレビューされているので,そこも参考になるかもしれません.
      • 【教員と相談してみる】 自分だけで考えるのには限界がある場合もあります.そのようなときは専門家である教員に相談してみましょう.何も事前準備なしに相談と言われても,そこまで生産的な話し合いができるわけではないので,事前に自分なりに調べたり考えたりして,どこまで調べて考えて,どこで迷っているのか,何がわからないのかを明確にして相談しにいくと良いでしょう

何か例があった方がイメージしやすいと思うので,例を挙げて説明していきます.
例えば,より良い教育を実現することに興味があって,「グループワークを行う際の最適な人数はなんだろうか?」という疑問を持ち,グループワークにおける最適な人数を調べることを研究テーマにすることにしましょう(この研究テーマはまだまだツッコミどころは多いのですが,わかりやすい例としてこれにさせてもらいます.どこにツッコミポイントがあるのかというのは後ほど説明します).

研究目的を定める

研究テーマが定まったら,研究目的を設定します.ちなみに早めに言っておくと,おそらくみなさんが想像する目的よりももっと具体的な目的を設定する必要があります.と,これだけで言ってもイメージがつきにくいと思うので,先程の例をもとに説明していきます.

例えば,「グループワークにおける最適な人数を調べる」研究について考えてみましょう.一見,「グループワークにおける最適な人数を調べる」が目的でも良さそうな気がしてきますよね? ただ,この粒度の表現だと色々と不明な点が多すぎて,研究目的とは言えません.例えば,以下のようなツッコミどころがあります.

  • 【対象は?】 小学生を対象にするのか,大学生を対象にするのか,社会人を対象にするのかによって結果は変わりそうですよね.そうすると対象を検討する必要があります
  • 【グループワークとは?】 グループワークといっても様々なグループワークの方法があります.アイデアをどんどん出すブレインストーミングであったり,多肢選択問題についてグループで議論し合うピアインストラクションであったり,と方法によって得られる効果は変わりそうです.そうするとどういう方法を用いるのか,検討する余地がありそうです
  • 【分野は?】 グループワークで扱う内容が物理学のものなのか,文学のものなのかで調べることや結果が変わってきそうですよね.そうすると分野についても検討する必要がありそうです(もちろん幅広い分野を対象に分析して,普遍的に最適な人数が決まるのかを調べるのも一つの研究になりうるので,必ず絞らないといけないというわけではないです)
  • 【最適とは?】 最適な人数と言った時に,何をもって最適と言えるのでしょうか? 試験の成績が良くなるという観点でしょうか,科目に対するモチベーションが向上するという観点でしょうか.何をもって最適というのかも検討する必要がありそうです.
  • 【先行研究は?】 上記の点を明確にしたとしても重要なポイントがまだあります.先行研究です.先行研究ではどこまでわかっていて,どこがわかっていないのでしょうか? それを明確に指摘できないと,この研究を通して得られる知見が本当に新しい知なのかがわかりませんよね.そのため,先行研究の調査は非常に重要になります.先行研究に関しては,研究プロセスに深く関係するため,最後に詳しく説明します.

このようなポイントをみると,「グループワークにおける最適な人数を調べる」ではまだまだ研究できないことがわかるかと思います.そこで,ここでは「物理教育におけるグループワークの質向上を目指して,大学の物理学の授業における演習問題にグループで取り組む際,グループの人数が試験結果やモチベーションなど学習に与える影響を明らかにすること」を研究目的としましょう(もちろんこれでもまだまだツッコミどころはありますが,この後の内容も重要なため,今回はこれで進めさせてもらいます).

研究の計画を行う

目的が定まったら,研究の計画を行っていきます.ここは具体例ベースで説明するのが伝わりやすいので,具体例を挙げて説明します.

グループワークの人数が学習に与える影響を明らかにしたい場合,例えば以下のような研究の計画が考えられます.

  • 2,3,4,5,6人のグループを作り,それぞれグループワークをやってもらい,その後それぞれ試験を受けてもらい,さらにモチベーションに関する質問紙調査を行い,その結果をグループ間で比較する

一見,良いように見えますが,ツッコミどころは多くあります.一般的な研究の計画を行うときのポイントと合わせてコメントしていきます.

  • 論文の完成形を検討して,逆算的に必要なデータや分析方法などを具体的に検討する
    • まず論文の完成形を検討することがおすすめです.論文に載せるであろう結果の図や分析結果を予め検討した上で,必要なデータや分析方法などを具体的に決めていくのです.そのような検討をしないでデータを取った場合,分析の段階であのデータをとっておけばよかったとなってしまうことがあります.実際,吉田が学生の頃は,がむしゃらに実験してデータを取得したのはいいものの,結局そのデータをどうやって論文に落とし込むかが難しくかなり苦しい思いをしました.
    • グループワークの研究例で説明すると,論文の中で試験結果と質問紙調査結果のグループ間比較が必要になりそうです.比較をするため統計検定が必要で,そのためにはおおよそどの程度のデータ数が必要であるかを検討します.そうするとグループ数が決まってきます.
    • ここで,試験における設問をどうするのか,モチベーションに関する質問紙における項目をどうするのかを検討することも大事です.モチベーションについて検討すると,モチベーションといっても多くの理論があります.そこで,どのようなモチベーションの質問紙を使うのか,新たに作るのか,どのように分析するのかなどを検討する必要があり,その判断によっては取得するデータの数を多くしないといけない場合もありますし,場合によっては事前の質問紙も必要になるかもしれません.このように,論文の完成形を意識して,具体的にデータや分析方法を検討して,どのような結果が得られるのかを検討しておくことが大事です.
  • 選んだ研究方法に対して論理的な説明ができるようにする
    • 研究の計画をする際,何かしらの方法を選びます.その際,その方法をなぜ選んだのか,今回の研究において合目的なのか,を必ず検討しましょう.それは一つ前の論文の完成形を検討しておくことにもつながるのですが,論文でなぜその方法を選んだのかを書けるようにしておけば,研究の妥当性や信頼性が高まります.もしそのような記述なしに論文を投稿した場合,査読者(査読については研究発表参照)からツッコまれた時に苦し紛れの回答をせざるを得なくなってしまいますし,そもそもより良い方法を検討した上でその状況下でベストの方法をとるのが研究のあるべき姿だと思いますので,研究方法は慎重に検討しましょう.
    • グループワークの研究例で説明すると,次のようなツッコミどころがあります.グループの人数について,グループの人数を 2~6 人で分けて実験しようとしていますが,7人以上のグループを今回の研究のスコープから外しています.それは研究目的を達成する上で正しいのでしょうか? これに対しては,例えば先行研究でわかっていることがあればそれを根拠にこう設定した,と理論武装する必要がありそうです.
  • 実現可能性を考慮する
    • 無尽蔵に時間とお金をかければ非常に多くのデータを取得して,一般的な知見を抽出できるかもしれません.ただ,残念ながら時間とお金は有限です.そうすると,設定された時間(おおよそ卒論なら半年~1年,修論なら2年,博論なら3年など)内に終わり,かつ予算もオーバーしない計画にする必要があります(必要に応じて予算を獲得するのも大事なので予算だけがネックならば自分で新たにとってくるのもよいでしょう).つまり,研究の実現可能性も考慮に入れなければならないということです.
    • グループワークの研究例で説明すると,次のようなポイントが挙げられます.グループの人数についての言及はありますが,グループ数についての言及はありませんでした.グループ数が大きければデータの数も大きくなるため,統計検定の結果が出やすくなります.ただ,例えばグループ数をそれぞれ100用意するには,かなりの時間と労力がかかってしまいそうですよね.さらには謝金を出すならば,予算もかなり多くする必要があります.そこで,本当に100グループ必要なのか? 最低どの程度グループ数があれば統計解析できそうか? などを考慮して,実行可能な研究計画にしていくことが重要です.
  • 研究の Weak ポイントを可能な限り減らす
    • 実現可能性を考慮するところにも関連しますが,研究を行う上で必ず限界はあります.そのため,実現可能な範囲でできるだけ研究の Weak ポイントを減らすことが重要になります.
    • グループワークの研究例で説明すると,試験を受けてもらい,その結果を比較する,とありますが,それだけで十分でしょうか? 実際にグループワークをやった後の試験を用いるだけでは,そもそも各グループのメンバーにもともと学力の差があったのでは? という指摘に対応しきれませんよね.その指摘に対応するためには,グループワーク前にも試験を行い,各グループメンバーがそれぞれ同じぐらいの学力であることを示しておく必要があります.つまり,工夫次第で実現可能性も担保しつつ,Weak ポイントの少ない研究にすることができます.そのため,様々なツッコミを自分で入れつつ,Weak ポイントの少ない計画にしていきましょう.
  • 先行研究を参考にする
    • これは大前提になりますし,研究のどのプロセスでも重要なのですが,先行研究を参考にしましょう.特に方法に関しては,先行研究で用いられていた方法を参考にできることが多いです.
    • 上記の例だと,特にモチベーションに関する質問紙は先行研究が参考になるでしょう.モチベーションに関する質問紙は多く,特にどのモチベーションについて調査するのか,具体的にどのような質問紙の項目を設定するのか,どのように結果を分析するのか,など多様なポイントがあるため,積極的に先行研究を調べて,参考にしましょう.

このように,研究の計画をする上では,考えるべきことが多くあります.ただ,この時点で練られた計画になっていれば,論文を書くまでが非常に楽になりますので,計画を綿密に立てることをおすすめします.

計画を実行する

計画を練った後は,とにかくやってみることが重要です.ただ,計画の実行には時間・労力・お金がかかるため,できるだけよい計画を練って後戻りしないように努力することが大事です(そのため,一つ前のステップである計画を厚めに説明しました).

とはいうものの,計画通りにはいかないこともあるので,その場合は,また計画を練り直して再挑戦すればよいのです.再挑戦するにしても時間がかかるので,とにかくやってみることが大事です.そのため,計画ができたらすぐに実行しましょう.

結果を評価する

計画を実行して結果が得られたら,その結果が意図するものだったのか,結果が意味するものは何かを検討していきます.その際,先行研究の結果とも比較して妥当な結果なのか,意外な結果ならば間違いなのか新しい発見なのかなど検討することが大事です.

改めてデータを取得したほうが良い,新たなにデータを取得したほうが良いということであれば,計画を練り直して,再度実行することが重要です.計画を練って,実行して,その結果を評価するサイクルをできるだけ効果的かつ効率的にまわすことが大切です(いわゆる PDCA サイクルのようなものですね).そうすることで研究が洗練されていきます.

研究を発表する

結果がある程度まとまり,内容を公開したい段階になったら,研究を発表していきます.研究発表は主に2種類の方法があります.研究者が集まる学会での発表と,論文誌に掲載される論文による発表です.

学会発表

研究者が集まる学会で発表する形式です.学会で発表することにより,他の研究者からのフィードバックをもらえます.また,自分の研究をアピールする場にもなります.発表の種類は大きく分けて2つあり,口頭発表とポスター発表です.

  • 【口頭発表】 スライドなどを使って15~20分ほどで自分の研究を発表する形式
  • 【ポスター発表】 ポスターを使って,ポスターの前に立って来てくれた人に対して自分の研究を説明する形式

学会発表は基本的に研究をしていれば行うことができますが,学会によっては査読(選考)があるところもあります.例えば,海外の学会では,口頭発表(Oral presentation)の方がポスター発表(Poster presentation)よりも難しいことなどあります.ただ分野や学会によって位置づけが異なるので,適宜確認しましょう.

また,一般的に論文による発表の方が研究業績として認められやすいこともありますが,分野(例えばコンピューターグラフィックス)によっては,論文よりも学会での発表に価値をおいている場合もあります.教育工学の場合は,論文による発表に価値がおかれています.

論文発表

論文誌で論文を発表する形式です.論文誌といっても色々な種類があるため,自分の分野でどの論文誌に出すとよいかを考えながら論文を読んでおくとよいでしょう.また,論文といっても以下のように種類が複数あります.

  • 【原著論文】 著者が行った独自の研究結果が載っている論文.論文と言えば基本的にこの論文を指すことが多い.多くの研究者はこの形式の論文を書く
  • 【レビュー論文】 ある分野の先行研究を幅広く調査して,分野の動向や未解決の問題などの整理を行う論文.分野の大御所が書くことが多く,分野の研究動向を把握する上では有用
  • 【レター・速報】 できるだけ早く世の中に研究結果を公開するための論文.自身のオリジナルな研究を早く世に出したい場合に利用する

このように種類がありますが,基本的には原著論文を書くことが多いでしょう.

また,論文で発表する上で欠かせないのが査読(さどく)です.査読とは,他の研究者がある論文誌に提出された論文を読んで,その論文誌に掲載するのに値するかどうかを判断するプロセスです(査読なしの論文もありますが,査読ありの論文の方が他の研究者の内容確認が入ったという点で,研究の信頼性は高まります).

査読は複数人で行われることが多く,査読者は論文投稿者のことがわからない,論文投稿者は査読者のことがわからないダブルブラインドの形式がとられることが多いです.

査読結果には以下のような種類があります.

  • 【採録】 提出された論文を掲載することを許可する判定
  • 【条件付き採録】 査読者によって提示された条件をクリアすれば掲載することを許可する判定
  • 【再判定】 査読者のコメントに対応した上で,再度査読の必要がある判定
  • 【不採択】 掲載しない判定

最初から採録になることはほとんどないため,査読者のコメントに対応する必要があります.そのような査読者とのやりとりを経て,無事採録の判定をもらえると,論文が世に出ることになります(分野によっては査読プロセスを経るのではなく最初から arXiv.org などで論文を公表する場合もあります).

先行研究を参照する

先行研究の重要性

研究は過去の巨人の肩に立って行うものなので,過去にどのような研究がされているのかを把握することが重要です.その重要性について,研究プロセスの各段階に紐づけて説明します.

  • テーマを決める
    • そもそもどのような研究テーマがあるのか,自分が新しいと思っていることが本当に新しいのかなど,研究テーマを決める段階でも先行研究は役立ちます
  • 研究目的を定める
    • 具体的な研究目的を定める際も,テーマを決めるときと同様,先行研究で同じことがやられていないか,先行研究に比べてその研究をする意義があるのが明確かなど,目的を定める際も先行研究を参照します.
  • 計画を行う
    • 実験方法や分析方法など研究方法を検討する際に,先行研究で用いられていた方法を参考にすることで,方法の妥当性や信頼性を上げることができます.
  • 結果を評価する
    • 関連する先行研究で得られている結果と比較して,説明できる結果になっているか,なっていない場合新たな発見があるか,など自身が出した結果を評価する上で先行研究が参考になります.
  • 研究を発表する
    • 研究発表において,自身の研究のオリジナリティを明確にする上でも,分野における位置づけを明確にする上でも先行研究について言及することが重要です.

先行研究の調べ方

重要な先行研究の調べ方について説明していきます.探し方はいくつかありますので,主な方法を紹介します.

  • キーワードで探す
    • これが最もオーソドックスな方法です.検索サイトとしては Google Scholar や Web of Science が挙げられます.以下,検索するときのテクニックと検索結果の見方を紹介します.
    • 検索するときのテクニック
      • スペース込みのフレーズで検索したいとき: 通常 effect size などスペースを入れて検索すると,文章中離れたところに effect と size があるものもヒットしてしまいます.もし effect size のように連続するフレーズを検索したいときはダブルクオーテーション(”)を使って “effect size” と調べると,フレーズで調べることができます.
      • あるキーワードを除いて検索したいとき: -social などと検索結果から除きたいキーワードの前にマイナス(-)をつけると,そのキーワードが入っている文献を除いてくれます.
    • 検索結果の見方
      • 【タイトル】 検索結果でまず見るところです.自分の知りたいものに関係するかどうかはまずタイトルで判断しましょう
      • 【論文誌名】 どの論文誌に載っているかもその論文の信頼性やインパクトを把握する上では重要なので,これもチェックしましょう
      • 【著者名】 誰が書いているのかも合わせて確認します.この人なら信頼できるなど人ベースで判断できる場合もあります
      • 【出版年】 いつ出版されたのかを確認します.ある程度前に(例えば10年ほど前に)出版されていたものだったら,それよりもあとに後続の論文が出ていないか確認してみましょう.
      • 【引用数】 他の論文からどの程度引用するかも確認してみましょう.引用数が多ければ注目されている論文であることがわかります.ただし,引用数が多い論文 = 正しい論文 or 良い論文とは限らないので,注意して読みましょう
      • 【アブストラクト】 ある程度興味があるとわかったら,その論文の概要(アブストラクト)を確認してみましょう.そこに書かれていることでより自分の研究に関係がある,読んでみたいと思えば,本文を読んでみましょう
  • 引用から探す
    • 自分の研究に関連すると考えた論文が引用している論文を読む方法です.例えば,ある論文が異なる論文を引用して研究方法を定めている場合,その研究方法をより詳しく知るために,引用されている論文を読んだりします
  • 被引用から探す
    • 自分の研究に関連すると考えた論文「を」引用している論文を読む方法です.先程の「引用から探す」は対象の論文よりも前に発行された論文を探す方法ですが,この方法は対象の論文よりも後に発行された論文を探す方法です.対象の論文のあとにどのような研究がされているのかを把握するために用います.Google Scholar だと引用数のところを押すと,対象の論文を引用している論文が一覧で出てきます.
  • 論文誌から探す
    • 自分の分野で優良な論文誌をチェックする方法です.論文誌に載っている論文は多様なので,いつもは調べる対象ではないような論文が見つかることもあるのでおすすめです
  • 人から探す
    • 興味ある研究をしている研究者をベースに論文を調べる方法です.その研究室のホームページや Google Scholar の研究者プロフィールページなどから調べることができます

おわりに

すみません,かなり長文になってしまいました.また,ここまでお読みいただきありがとうございました.この記事で研究のざっくりとしたポイントは網羅できたかと思います.研究を始める人にとって参考になれば幸いです.

研究のポイントを一言でまとめると,先行研究や自分の興味をふまえてマクロな視点で研究テーマ・目的を定めて,ミクロな視点で細部に渡るまで研究の計画を行い,実行し,結果を評価した上で,発表としてまとめることが大事,ということです!

研究は楽しいので,是非良いテーマを見つけて研究に没頭してみてください!

研究の最新記事4件