アクティブラーニング技法 Think Pair Share

この記事では、アクティブラーニングの技法である Think Pair Share(シンク・ペア・シェア)について説明します。

目次

Think Pair Share とは

教員からの問いかけに対して、学生が1人で考えて(Think)、ペアで共有・議論し(Pair)、その内容を全体で共有(Share)してもらう方法です。

特徴

話してもらいやすい環境を作ることができる

まず1人で考えるため、ペアでの共有がしやすくなります。また、ペアで既に話しているため、全体での共有もスムーズになります。例えば「ペアで話していたことでよいので教えてくれますか?」と直接学生に聞けば、ほとんどの学生は答えてくれます。

全員が参画してくれる設計になっている

1人で考えてペアで共有・議論する設計になっているため、全員が参加する環境を作り出すことができます。問いを学生1人に当てて答えてもらう形式だと、当てられた学生1人がアクティブになりますが、Think Pair Share だと全員に責任が生じるため、全員の参加を促せます。

どのようなトピックでも利用できる

Think Pair Share の方法はどの分野のどのトピックでも利用できます。そのため、非常に汎用性の高い技法といえます。

大人数授業でも活用できる

大人数の授業でもペアを作ることはできるため,Think Pair Share を活用することができます.詳しくは実践例2をご覧ください.

グループへの応用もできる

ペアではなく、グループで考えたことを共有することもできます(Think Group Share と呼ぶときがあります)。まず1人で考えて、3~4人のグループで共有して、全体で共有する、といった流れで、Think Pair Share と流れは同じです。

流れ

以下、技法の流れを説明します。それぞれのステップにかかる時間を提示していますが、あくまで目安ということで参考にしていただければ幸いです。

  • 教員が学生に問いを提示する(目安: 2~3分)
  • 学生がまず1人で考える(目安: 1~3分)
  • 学生がペアになって共有する(目安: 2~5分)
  • ペアで話した内容を全体で共有してもらう(目安: 3~6分)

上手く実施するためのポイント

思考を促す問いかけを行う

話し合う意義がある問いかけを行うのが重要です。例えば、知識を問うようなもの(例えば「〇〇が生まれたのは何年ですか?」)だと、知っているか知らないかで答えが変わるだけなので、考える余地や議論する余地がありません(例えば議論が「〇〇が生まれたのは1930年だよ」「そうなんだ」で終わってしまいます)。

Think Pair Share を上手く実施するためには、思考を促す良い問いかけを行うことが重要です。

意外と時間がかかるため(15分程度)、「ここぞ」というところで利用する

一見お手軽に見えるのですが、意外と時間がかかるため、この技法を使う場面は選ぶことをおすすめします。例えば、学期始まりの授業の導入で使ったり、今日の授業で特にこれを学んでほしいというトピックにひもづけて活用することなどが挙げられます。

オンラインでの実施

オンラインでの実施にあたって、Web 会議システムのブレイクアウト機能を使うのがおすすめです。また、ブレイクアウト機能を用いると各グループの様子がわかりにくいことから、Google ドキュメントなどを併用して作業の進捗を把握するのがおすすめです。

以下、具体的なオンラインでの実施の流れを説明します。

  • 画面共有などを用いて、問いかけを提示する
  • 1部屋2人になるようにブレイクアウトルームを設定する
    • 学生が奇数の場合。TA がいれば TA と学生1人のブレイクアウトルームを作り、TA がいなければメインルームに1人学生を残して、教員とペアワークを行うことにする
  • ブレイクアウトルームに移動してもらい、ペアワークを行ってもらう
  • 時間が来たらメインルームに戻ってきてもらい、ペアワークでの内容を全体で共有してもらう

実践例1: 教員対象のワークショップでの活用

活用場面

教員対象のアクティブラーニングについて学んでもらうためのワークショップの導入部分で活用しています。このワークショップは数多く実施しているのですが、参加者数は20名のときもあったり、200名のときもあったりとバラバラですが、どの回でも上手く実施できています。

活用方法

以下のようなワークショップの流れの中で活用しています。

  • はじめに
    • 講師の自己紹介、ワークショップの目的、目次など…
  • 導入ワーク ← ここで Think Pair Share を使っています
    • 「最も学んだと感じた授業とその工夫は何ですか?」と問いかける
    • 参加者が1人で考える(3分)
    • ペアを作る(1分)
    • ペアで共有する(3分: 1人1分30秒)
    • 全体で共有する(5分)
      • 共有してもらった内容とアクティブラーニングが絡むところがあれば、学びの実感とアクティブラーニングを紐づけて紹介する
  • アクティブラーニング(メインコンテンツ)
    • 定義、導入する上で重要なこと、具体的な方法など…
    • 具体的な方法を説明する際に、Think Pair Share の方法も紹介し、「実は導入で皆さん体験してもらってしまいた」と、導入でワークしてもらった経験を最大限活かす設計にしています

実践例2: 100~200名の大人数授業での活用

活用場面

理系の学部1年生が必修で受ける研究に関する理解を深める導入授業で活用していました。100~200名が参加する対面の授業で、研究計画に関する理解を深めてもらう部分で活用しました。以下の記事により詳しい情報がまとまっていますので、詳細を知りたい方はご覧ください。

活用方法

以下のような授業の流れの中で活用しました。

  • 大学における学びを知る
    • 大学における学びとは何かについて簡単に情報提供をして、少し考えてもらう
  • 研究とは何か
    • 研究の概要について理解してもらう
  • 研究のプロセスを知る ← ここの研究計画の部分で活用
    • 研究テーマ、計画、実行、発表など研究のプロセスについて理解を深める
  • 学術資料の調べ方を知るなど以降も内容が続く…

具体的な Think Pair Share の流れは以下のとおりです.

  • 教員が「大学において、学習効果を最大化するグループワークの最適な人数を知るためにはどのような研究計画を立てればよいか?」と問いかける
  • 学生1 人で研究計画について考える(3分)
  • 学生2~3人のグループを作る(2分)
  • 学生2~3人で計画について議論する(5分)
  • 学生2~3人で話したことを全体に共有する(3分)
  • 教員が研究計画について解説する(5分)

Q & A

ペアでは話してもらえそうなのですが、全体でも共有してもらえるようなコツはありますか?

まずこの技法自体、ペアで話してもらうことから、自分の考えを言葉として出すのが初めてではなくなっているため、全体での共有が非常にスムーズになります。それでも以下に示すようなことをすることで、よりスムーズになりますので、ご参考にしていただければと思います。

  • 全体にふわっと「共有してくれませんか?」と聞くのではなく、直接学生を指名して全体共有してもらう
  • 全体共有してもらう前に、「ペアで話し合った内容でよいですし、どのようなものでも問題ないので共有してみてください」など、学生が話しやすい雰囲気を作り出す
  • 全体共有が終わった後に、たとえ釈然としない回答であっても、共有してくれたことに感謝して、誤理解などがあれば丁寧に解説・修正する(こうすることで後続の学生も共有しやすくなる)

ペアでなくてグループで実施すると良いのはどのようなときですか?

1つの方針として、時間をかけてじっくり取り組んでもらいたいワーク、例えばお互いの文章を添削し合うようなワークの場合は、ペアワークにして、多様な視点で議論してほしい場合はグループワークにするのが良いかと思います.

以下に示すようなペアワーク、グループワークの特徴を参考にしながら、ペアでやると良いのか、グループでやると良いのかを学生視点で考えてもらうのが良いかと思います。

  • ペアワークについて、ワークにおいて一人あたりが発言できる時間がグループに比べて長くなる一方、グループに比べて、協働する他者が1人であるため、視点が多くはない(多様性が高くない)
  • グループワークについては、ペアワークに比べて人数が多いため議論・共有する際に視点が多くなる(多様性が高まる)一方、人数が多くなるほど一人あたりが発言できる時間が少なくなる(フリーライダーも発生しやすくなる)

オンラインで実施する際に、全員の意見を共有してもらいたいのですがどうすればよいでしょうか?

10名程度と人数が少ない場合は、Zoom のチャット、Google フォーム、Google ドキュメントなどに考えたことを書き出してもらうのが良いかもしれません。

ただ人数が増えてくると、意見の把握や集約が難しくなってしまうので、手前味噌にはなりますが、わたしたちが開発している意見を集約・共有できるツール LearnWiz One は便利でおすすめです。詳しくは,LearnWiz One のホームページをご覧いただければ幸いです。

  • LeranWiz One: https://one.learnwiz.jp/

大人数授業でどのようにペアを作れば良いでしょうか?

対面の大人数授業だと「ペアになってください」だけでは、なかなかペアになってくれません。オンラインの場合は自動的に振り分けできるため、その点問題ありません。対面におけるペアづくりでおすすめなのは、あらかじめ座る席を絞っておくこと、機械的にペアを作る設計にすること、ペアを作る時間を明示的に設けることです。

  • あらかじめ座る席を絞る
    • 大教室において散り散りに着席されてしまうとペアを作るところで時間がかかってしまいます
    • そのため、あらかじめ座る場所を指定するなど、座ってもらう場所を絞るのが重要です
  • 機械的にペアを作る
    • ペアを自発的に作ってもらおうとすると時間がかかったり、ペアを作ってもらえなかったりします
    • そこで、「机の端からペアを作っていって、奇数で余ってしまう場合は右隣のペアに合流してください」など、機械的にペアが作れるようにすることで、ペア作りを促すことができます
  • ペアを作る時間を設ける
    • ペアを作ってワークしてください、とペアを作ることとワークすることを同時にお願いすると、ペアを作らずワークをしない人が発生してしまいます
    • そこで、「ペアを作ってください」と伝えて、ペアを作る時間を明示的に設けると、まずペアを作ってくれますので、そのあとのワークをしてもらいやすくなります

思考を促す問いを作るコツはありますか?

思考を促す問いを作る時に参考になる情報があります。

それは「Bloom の教育目標分類(タキソノミー)」です。教育目標を体系的に分類したもので、特に有名なのは認知的領域の分類です(1956年発表)。簡単に言うと、知識や思考に関する学習の目標の分類です(他にも態度に関する情意的領域、スキルに関する精神運動的領域、更にはAnderson と Krathwohl が発表した新分類もありますが、情報が多くなってしまうので割愛します)。

オリジナルの分類(認知的領域)は以下に示すようになっていて、下から上に行くに従って高次な目標になっていくという構造になっています。そのため、教育目標分類を参考に、高次な目標を達成できるような問いかけを考えることで、思考を促す問いを作るサポートになるかと思います。長くなってしまいすみませんが、問いかけの例も合わせて提示します。

  • 評価(Evaluation)
    • ポイント: 学んだことをふまえて物事の評価ができるか
    • 例: Bloomのタキソノミーは他の目標分類と比べてどこが優れているでしょうか?
  • 統合(Sysnthesis)
    • ポイント: 学んだことを組み合わせたり、新たなものを作ったりできるか
    • 例: この授業に対して適切な目標を設定してください
  • 分析(Analysis)
    • ポイント: 学んだことをふまえて与えられた場面や状況を分析できるか
    • 例: この授業に欠けている目標は何でしょうか?
  • 応用(Application)
    • ポイント: 学んだことを他の場面・状況に当てはめられるか
    • 例: Bloomのタキソノミーを使って、この授業の目標を分類してください
  • 理解(Comprehension)
    • ポイント: 学んだことを自分なりに説明できるか
    • 例: Bloom のタキソノミーの認知的領域について説明してください
  • 知識(Knowledge)
    • ポイント: 事実や用語を知っているか
    • 例: Bloomのタキソノミーが作られたのはいつですか?

関連するワークショップ

Think Pair Share に関するワークショップを実施した時の録画や資料が以下のページにありますので、ご覧いただければ幸いです。

(参考)本技法の起源

本技法は、メリーランド大学と Howard County Sourthen Teacher Education Center にて考案されたもので、1981年にメリーランド大学の Frank Lyman 先生が、書籍「Mainstreaming Digest」内の文献「The Responsive Classroom Discussion: The Inclusion of All Students」にて、紹介されています。
文献情報: Lyman, F. (1981). The Responsive Classroom Discussion. In A. S. Anderson (Ed.), Mainstreaming Digest (pp. 109-113). College Park, MD: University of Maryland College of Education.

この技法が活用された背景には、よく発言する生徒だけが話すのではなく、「全員」が話せるような戦略が必要だという考えがあります。実際、Lyman 先生の文献では、予備的な研究ではありますが、授業の中で話していない生徒が話すようになったり、全員が発言するといった結果が得られたと書かれています。私自身、学習者全員をエンゲージさせる技法として非常に優れていると感じています。

また、実は Think Pair Share ではなく、この文献では Listen Think Pair Share として技法が紹介されています(A Multi-Mode Discussion Cycle とも呼んでいます)。Listen が最初についているのですね。それは、教員の問いかけを聞き(Listen)、1人で考え(Think)、ペアで話し合い(Pair)、全員で共有する(Share)する、といったように、問いかけをまず聞く Listen も活動として含めているからです。問いかけが重要な本技法においては Listen Think Pair Share の方が本質を表しているように感じます(少々言いにくいのですが)。

(参考)本技法に関連する研究

THink Pair Share に関する研究は数多くありますが、ここではその一部を紹介します。

学生の関与(エンゲージメント)に与える影響を評価した研究(コンピュータサイエンスの大規模授業での活用)

【文献情報】Kothiyal, A., Majumdar, R., Murthy, S., & Iyer, S. (2013, August). Effect of think-pair-share in a large CS1 class: 83% sustained engagement. In Proceedings of the ninth annual international ACM conference on International computing education research (pp. 137-144).

Think Pair Share を用いた際の学生の関与(エンゲージメント)の量と質を調査した研究です。

120~150名が参加する授業において、10週間、13回の Think Pair Share 活動を実施し、学生の様子を観察しました。その結果、平均して83%の学生が「完全に」または「ほとんど」ワークに参加していることがわかりました。大人数でも Think Pair Share を使うと高いエンゲージメントを生み出せることを示唆しています。

詳しく知りたい方は論文を読んでいただければと思いますが、学生の様子を観察して、ノートPCに書き出している、近くの人と話している、他のところをボーッと見ているなど、活動の質もチェックしているところが興味深いです。

批判的思考能力に対する影響を評価した研究(看護教育の授業における活用)

【文献情報】Kaddoura, M. (2013). Think pair share: A teaching learning strategy to enhance students’ critical thinking. Educational Research Quarterly36(4), 3-24.

Think Pair Share を使うことが批判的思考能力の育成につながるかについて調べた研究です。

授業に参加する学生91名を、Think Pair Share を用いるグループ(TPS群)、用いないグループ(非TPS群)と2つに分けて、17週間の教育を行いました。事前事後で、批判的思考能力を評価するためのテスト(HESI critical thinking test,HESI: Health Education Systems Incorporated)を行いました。その結果、TPS 群の方が批判的思考能力が高まっていることが示されました。

準実験法を用いて、できるだけサイエンティフィックな知見を出そうとしています。また、批判的思考能力を看護教育の中で活用されているテストを用いて行っているところが興味深いです。