アクティブラーニング技法 相互評価

この記事では、アクティブラーニングの技法である相互評価について説明します。

目次

相互評価とは

相互評価(Peer assessment)とは、レポートなど学習者の成果物を学習者同士で相互に評価する技法です。ピア評価やピアレビューと呼ばれることもあります。

「評価」と聞くと、一般的に教員が行うイメージがあるかもしれませんが、この技法では学習者がお互いに評価を行います。

特徴

  • 評価観点に関する理解が深まる
    • 他者の成果物を評価する経験から、評価の観点がわかるようになり、自分の成果物を改善する能力が高まります
    • ただしトレーニングせずに評価をしてもらっても妥当な結果にはならないことが多いため、実施するときのポイント
  • フィードバックを早く得られる・与えられる
    • 教員が学習者一人ひとりにフィードバックするよりも早くフィードバックを得ることができます
  • 教員による評価の時間を短縮できる
    • 学習者同士で相互評価してもらい、その評価と教員の評価と異なるところがあれば、そこを指摘するという運用にすることで、採点やフィードバックなどの時間を短縮することができます
    • 学習者が成果物を評価できるレベルに達している場合は、さらに作業時間を短くできます

実施の流れ

大まかには、ピアレビューの方法は以下のようにまとめられます。

  1. 教員が課題を提示
  2. 学習者が課題を提出
  3. 学習者が他者の課題を評価

ただし、評価の信頼性や妥当性を高めるために、後述する実施するときのポイントのように、ルーブリックを導入したり、実際に評価の練習をしたりするのも有効です。

実施するときのポイント

相互評価においてよく話題に上がるのは、学習者の評価と教員の評価が乖離するのでは?」という疑問です。そこで、学習者と教員の評価の相関を高める(いわば、学習者に評価のポイントを学んでもらう)ため、以下の方法が提案されています。

  • ルーブリックなどを用いて評価観点を示す

Flachikov & Goldfinch (2000) によると、評価観点を明示することで学習者の評価が教員の評価に近くなるそうです。したがって、どういうポイントを重視して評価を行うのか、きちんと伝えるのが大切です。

  • 評価の練習を行う

学習者に評価の仕方を練習してもらうことで、評価の精度が上がることも知られています。例えばMin (2006) の研究では、教員が相互評価を実演し、その評価観点をもとに学習者にある課題を評価してもらいました。そして、学習者の評価について教員がフィードバックすることで、相互評価の質が上がりました。

他にも、相互評価の良い例や改善の余地がある例を見せ、教員がポイントを指摘すると、学習者は評価基準を理解しやすいと考えられます。

オンラインでの実施

オンラインにはさまざまなツールがあるので、ここで紹介する事例はあくまでも一例です。使いやすさに応じて、皆さんに応用・展開していただければと思います。

実施例1: オンライン会議システムとファイル共有サービスの組み合わせ

オンライン会議システムとファイル共有サービスを組み合わせれば、ピアレビューは実現できます。ここでは、オンライン会議システムとして Zoom、文書共有サービスとして Google ドライブを例に挙げて説明します。

  • 学生の成果物を共有できるように、Google ドライブにフォルダを教員が用意する
  • Google ドライブの中に、レポートなど学生の成果物を提出してもらう
    • 事前に各学生に番号を割り当てておき、ファイル名にその番号を入れておいてもらうようにすると、相互評価の指示出しがスムーズになります
    • さらに、必要に応じて、氏名などは記載しないでもらうことで、匿名の相互評価を実現することができます
  • 教員が相互評価するペアの組み合わせを共有する
  • ペア分のブレイクアウトルームを用意して、ペアで各部屋に分かれてフィードバックし合ってもらう
  • 最後に、教室全体に話に挙がったことを共有してもらい、学んだことを振り返える

このように、成果物を共有する環境を整えれば、オンライン授業などでも活用できます!

実施例2: 意見交換ツール LearnWiz One の活用

意見交換ツール LearnWiz One を用いることでライトな相互評価が可能です。

  • 学生に問いかけを提示して、それに対して回答してもらう
  • 学生が他者の投稿を読み、いいねや返信する時間を設ける
  • 人気順で投稿を全体で共有し、教員がフィードバックする

実践例: プログラミングの授業 ーWebサービスの開発

活用場面

プログラミングの授業の一環として、学生をグループに分け、各グループでWebサービスの開発を行いました。チームだけでは、考えが独りよがりに陥ってしまう可能性もあるため、相互評価のワークを取り入れました。またフィードバックのみならず、互いの進捗やクオリティを把握でき、全員が主体的に参加しやすいこともポイントだと感じます。

活用方法

以下、授業で行った流れを説明します。

  • 授業前
    • 構想中のWeb サービスの概要をまとめてくる
  • 授業中
    • 3人グループを作って、以下のワークを説明者を交代して3回繰りかえす
      • 1人が構想中のWebサービスの概要を説明(3分)
      • 聞き手が利用者の立場からフィードバック(5分)
      • テキストに残すため、フィードバックをWebフォームに記入(3分)
    • 教室全体で学んだことや疑問を共有し、適宜教員がフィードバック

Q&A

履修者が数百人規模の場合に可能な相互評価の方法はありますか?

「オンラインでの実施」で記載したものは大人数授業でも活用できます。

履修者の提出物に番号を振って Google Drive 等にアップロードし、各履修者にレビューしてもらう番号を割り振った上で、Google フォーム等にレビューを書いてもらうという方法があります。

評価の対象が画像や動画を含まないテキストのみであれば LearnWiz One を使うのも一つの手かと思います。LearnWiz One は、設計自体は参加者が何人であっても対応できるものになっています。

相互評価による評価のばらつきが大きい場合、何が問題ですか?

同じ成果物に対する相互評価の結果がばらつく理由としては、各学生が持っている評価基準が異なっている可能性が高いです。

学生が十分に評価できるレベルに達していない場合は、実施するときのポイントでも記載したように、以下のような方策をとることをおすすめします。

  • ルーブリックなどを用いて評価観点を明示する
  • 評価の練習をする機会を設ける
  • 良い例、改善できる例と評価結果を合わせて提示する

海外大学のコースをオンラインで学んだ際に、最低5人のピアレビューをすることがコース修了に必須でしたが、投稿が近い数人に ”Good!” など適当に入力して終わりにするケースが散見されました。効果的なフィードバックを得るために工夫していることはありますか?

ただ単に「コメントしてください」と指示するのではなく、評価観点を示してからコメントするように指示すると良いかもしれません。評価観点の例としては、論理性・創造性・内容・誤字脱字などが挙げられます。

また、各評価観点に関する点数に加えて自由記述を付けてフィードバックさせた方がより良いフィードバックになりやすいという知見もありますので、自由記述を書いてもらうという方法もあります。

学生間だと、指導的になる学生が出ることがあります。対応方法等はありますか?

最初の場づくりにおいて、互いに敬意をもって建設的な議論をするよう発信することが大切です。

例外的なケースですが、もしその学生が本当に指導できるレベルに達しているのであれば、TA のような役割を担ってもらうという選択肢もあるかもしれません。

大学だけではなく中学校や小学校高学年でも利用できますか?

もちろん利用できます。生徒・児童が作ったものに対してお互いに評価してもらえればそれが相互評価です。

1人では成果物を作るのが難しいような年齢の生徒・児童に対しても、グループで作ったものに対してグループ間で相互評価を実施することはできるでしょう。

ピアレビューの結果を成績に反映させるならば事前説明が大切だと思いますが、たとえ評価基準を決めていたとしても、知り合い同士だと主観が入ってしまうように思います。この点について教えてください。

まず大前提として、評価の公平性を担保する意味でも、できるだけ教員の評価と相互評価の結果が似るような(相関が高くなるような)仕組みづくりをすることが重要です。

ただし、そのような努力をしたとしても完全な評価になるわけではないと考えられますので、その場合は成績反映の方法を工夫することになるでしょう。例えば、他の学習者による評価そのものを成績に反映するのではなく、その評価の質を建設性などの観点から教員が評価して成績に反映するという方法があります。この方法は、結局教員による評価になってしまっていますが、「良いフィードバックをすることが良い成績につながる」という点で意味のある仕組みになっています。

その他、あまりにも評価の公平性を担保できないという場合であれば、相互評価への参加点で成績をつけるという方法も考えられます。

課題の問いかけは、オープンクエスチョン(記述式)の方が良いでしょうか?

クローズクエスチョン(選択式)だと、相互評価になりません。相互評価では、自分の作ったものに対して他の学習者からフィードバックをもらうという点が非常に重要ですので、課題としてはオープンクエスチョンが適しているでしょう。

ただし、クローズクエスチョンであっても、それを選択した理由や思考プロセスを書くよう提示して、その内容を対象とすれば相互評価は可能になります。

「ピア」というと1対1のイメージがありますが、1対多という関係性でも相互評価(ピア評価)という枠組みに当てはまりますか?

おそらく1対1のイメージは「ペア(pair)」から来るのではないでしょうか。「ピア(peer)」とは「仲間・対等者」の意味なので、1対複数でも相互評価(ピア評価)という枠組みに当てはまります。

関連するワークショップ

(参考)関連研究

相互評価に関するレビュー論文: Topping, K. (1998)

この論文は、高等教育の学習者間での相互評価に焦点を当てた論文109本をまとめたレビュー論文です。

相互評価は、さまざまな分野において、テストやライティングや口頭プレゼンなど、多様な結果や成果物に対して活用されているところ、相互評価に関するレビュー論文がないことに驚いた著者が自身で先行研究をレビューしました。

レビューのまとめは多岐にわたっており、相互評価の信頼性と妥当性、対象毎(口頭発表、記述式課題、グループワークとプロジェクト、専門スキル)の知見まとめ、コンピュータを用いた相互評価、質の高い相互評価の実施などを取り扱っています。ここでは、信頼性と妥当性、質の高い相互評価の実施方法について、簡単に紹介します。

相互評価の信頼性と妥当性については、31の論文が取り扱っており、結果として、18件の論文は、幅広い用途において、相互評価が十分な信頼性と妥当性を持つことを示唆している一方、7件は、特定のプロジェクトにおいて、信頼性と妥当性が受け入れがたいほど低いと示していました。そのため、さらなる研究が求められています。

質の高い相互評価を実施する方法について具体的には、相互評価を導入するにあたって期待や目的を明確化すること、評価基準を作成し明確化すること、質の高いトレーニングを提供することなどが挙げられています。

感想として、相互評価についての知見が網羅的にまとめられていて、とても興味深かったです。

効果的な相互評価の要因を調べた研究: van Zundert, M., Sluijsmans, D., & van Merriënboer, J. (2010)

相互評価と一括りに言っても、状況や条件はさまざまに異なり、効果的な相互評価の要因がはっきりしていません。この論文では、1990 年から 2007 年の間に出版された26の文献をレビューすることにより、効果的な相互評価の要因を調査しました。その結果として、以下の4点が明らかになりました。

  • 相互評価の質はトレーニングと経験によって向上すること
  • 相互評価の結果に基づき自分の成果物を修正してもらうことで、成果物の質が向上すること
  • 相互評価のスキルはトレーニングによって向上し、学生の思考スタイルと学業成績と関連していること
    • 例えば、学業成績の高い学生は、学業成績の低い学生よりも相互評価のスキルが高く、批判的であることがわかりました
  • 相互評価に対する学生の意識は、トレーニングや経験がプラスに影響すること

感想として、何が相互評価と関係があるのかが具体的に調査されていて、面白いと思いました。

参考文献

Falchikov, N., & Goldfinch, J. (2000). Student peer assessment in higher education: A meta-analysis comparing peer and teacher marks. Review of educational research, 70(3), 287-322. Min, H. T. (2006). The effects of trained peer review on EFL students’ revision types and writing quality. Journal of second language writing, 15(2), 118-141.

Topping, K. (1998). Peer assessment between students in colleges and universities. Review of educational Research68(3), 249-276.

van Zundert, M., Sluijsmans, D., & van Merriënboer, J. (2010). Effective peer assessment processes: Research findings and future directions. Learning and Instruction, 20(4), 270–279.

記事執筆に関わった人(50音順)

  • 木村夏菜子: 執筆「相互評価とは」「特徴」「関連研究」
  • 後藤香織: 執筆「実施するときのポイント」「実施の流れ」「オンラインでの実施」「実践例」
  • 宮田昇暉: 執筆「Q&A」
  • 吉田塁: 監修・編集